魅惑のユーロ2004 その1

 

 

ユーロ2004のベスト8が出揃った。

まだ折り返し点ではあるが、今回のユーロはいろんな意味で楽しい大会だと思う。

もともと欧州は実力的にそれほど差がなく、しかも本大会は予選を勝ち上がってきた国同士の対戦だからどの試合もが緊迫している。

よく言われる例えで、1992年に国際制裁で出場停止となったユーゴの代わりに出場したデンマークがあれよあれよという間に勝ちあがり

オランダ、ドイツといった強豪にも勝って優勝してしまったことも、実力的に差がないことを物語っている。

今大会は特にそうした実力伯仲のスリル感が顕著に出ているかもしれない。

加えてここ2.3年のサッカー界全体の傾向として「攻撃的」になっていることも面白さを増した。

これまで1点差を守りきるという伝統に秀でたイタリア・ドイツが勝ち残れなかったことは何か象徴的だ。

いずれにせよベスト8には積極的に攻撃に行ったチームが勝ち残った気がする。

 

同グループ・リーグのイタリアを蹴落としたデンマークとスウェーデンは勝敗はともかく、最初から攻めに重きをおいていた。

初戦でまさかのロスタイム逆転を食らったイングランドは2戦目以降は攻撃的にならざるをえなかったことが幸いした。

チェコも初戦で唯一隠したと見られていたラトビアにてこずり、やっとのことで逆転した試合を皮切りに

2戦目以降、全て逆転勝利だが、先制されたことで攻撃に弾みが出たことがかえってよかった。

逆にスペイン、イタリア、ドイツ、と強豪国が敗退したが、そろってエンジン全開になるのが遅すぎた感がある。

全てが3戦目で「勝つこと」が最低条件になったが、裏を返せば1.2戦目でもっとムキになっていても良かった。

どこか消極的で計算高かったことが裏目に出た。

スペインは初戦ロシアは一応の勝利だから、まー仕方がないが、2戦目のギリシャ戦は引き分けで終えるべきでなかった。

あの試合こそ死に物狂いで攻撃的に勝ちに行くべきだった。

3戦目の「ホーム」のポルトガル戦でグループ・リーグ突破できるかどうかなんていう状況は避けるべきだった。

スペインはそれ以外にもどこか勝負弱いみたいなフンイキはあるのだが。

今大会の敗戦は94年のワールドカップを思い出した。

あの時は最終戦で仮に勝ってもすでに敗退が決まっていたにも関わらず点がぼんぼん入り、得点をするたびにうなだれる選手が印象的だった。

 

イタリアにいたっては初戦は全く臆病だった。

マスコミは引き分けたデンマークが前回準優勝のイタリアに善戦という言い方をしたが、内容は全く違う。

デンマークが7.8割方押し捲り、イタリアはブッフォンのファインセーブなどでしのいだといった印象だった。

しかもそれでも攻撃に人数を裂くことはせず、相変わらず前3人の個人技頼みの攻撃に終始した。

2戦目のスウェーデン戦も先制をあげた後はただ守りに入るだけだった。

もっとも頼みの前3人の内の一人トッティが出場停止になったのだから誤算といえば誤算かもしれないが。

それでも進出をかけた3戦目の後半になってやっと攻撃に枚数を裂いたが、時既に遅しといった風にしか見えなかった。

ドイツは予想に反して初戦はいい感じでオランダと引き分けたが、2戦目のラトビアに引き分けてしまったのが全てだった。

チェコが2戦目でせっかくオランダを逆転してくれたのに、3戦目でそのチェコに敗れてしまった。

ドイツは最終戦のチェコに勝ちさえすれば他の勝敗は関係なく勝ち残れたが、最早チェコ自体が勢いづいてしまっていた。

メンバーを落としたチェコに先制したことで、この相手がオランダに0−2から逆転したことを忘れたのかもしれない。

 

ユーロの面白さは実力の拮抗した大会だからという理由以外にもうひとつある。

それは「おもしろいサッカーをするチームが勝ち残ることが多い」ことだ。

初めて見た72年大会で優勝したドイツ(当時は西ドイツ)はネッツァー、ベッケンバウアー、ミューラーと役者が揃った、見ていて楽しいチームだった。

84年の将軍プラティニを中心にティガナ、ジレスらの華麗な中盤でのパス・ワークを見せたフランス、

88年にファンバステン、フリット、ライカールトの3羽ガラスを揃え、ついに無冠の時代を終えて優勝したオランダ、

そして先述の、タレントはあまりいなかったが、スピードと思い切りのよさに溢れたデンマーク、

記憶に新しい2000年大会の守りのイタリアを粉砕したフランス、と

歴代優勝国にはその大会で一番魅惑的な戦い方をしていたチームが多い。

 

今大会多くの人が望むように「ポルトガルvsフランス」というファィナル・カードという目が出てきた。

ワールドユース2連覇を成し遂げた、いわゆるゴールデン・エイジ最後のホーム・ポルトガル。

その世代の代表格、フィーゴやルイ・コスタに加え、デコらチャンピオンズ・リーグでのポルト優勝の立役者も加わり、

また、完全に復活したストライカー、ヌーノ・ゴメスを揃え、初優勝を狙うホスト国。

そして前回、初のワールドカップとの連覇を果たし、なおかつ初のユーロ連覇を狙うフランス。

プレミア・リーグ無配優勝アーセナルの中心人物アンリ、ピレス、ビエラだけでもすごいのに

それにレアルのジダン、ユベントスのトレゼゲ、テュラムが加わるという、ドリーム・チームのディフェンディング・チャンピオン。

どちらも優勝するに相応しい魅惑的なチームであることは間違いない。

そしてその他にも今回はぐんぐん調子を上げてきたイングランド、スピード感溢れるデンマーク、絶好調ラーション率いるスウェーデン、

弾みがつけば実力天井知らずのオランダ、グループ・リーグ全て逆転勝ちで勢いにのるチェコ、

 

いやーどこも攻撃力のある楽しいチームだわー。

いよいよ決勝トーナメント。

ここから先はまた違った要素・・・例えば勝負強さとか選手層の厚さとか勢い、チームのムードなど・・・も絡んでくるのだろう。

見る側にとっては攻撃的で胸躍るような試合は大歓迎なので、イタリア・ドイツのファンには悪いが、今大会はかなり楽しんでいる。

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