日本代表とワールドカップ 〜その3 最終予選・一喜一憂 〜

 

 

第1戦はいわゆる「まずまず」という結果だった。

ほとんどアウェイ状態のサウジアラビア戦は結局0−0で試合終了。

ただし、福田の見事なボレーで勝つチャンスはあった。

シュートを止めたサウジアラビアのディアイエはその後、アジアではトップクラスのGKとして認められることになる。

サウジアラビアはもともと守備的なチームであり、さらには前年アジアカップで日本に敗れたことが影響してか、あまり積極的ではなかった。

日本も暑さによるダメージもあってか、終盤はあえて勝負にでなかった。

私も現実的な試合運びをしたという意味では良かったのではないか、とこの時点では思っていた。

そして予選の厳しさを改めて思い知ったのは第2戦のイラン戦だった。

 

怖いということではむしろ、長年日本の前に立ちふさがってきた韓国や情報があまりに少なく不気味な存在のイラクの方で

イランは前年のアジアカップでやはり日本が勝っていることもあって、さほどの相手ではないと思い込んでいた。

ところがこの時、イランには強力なストライカーがいた。

アリ・ダエイはこのアジア最終予選の最優秀選手となり、その後ドイツに渡り活躍するのだが、

その多大な存在感は、日本代表チームにはインフォメーションされていたろうが、見ている方は全く知らない状態だった。

初戦引き分けだった日本だが、イランの方は初戦で韓国に完敗していた。

アウェイ状態で難しい初戦をドローにした日本ならば、韓国に負けたチームには勝てるだろう…と、どこか楽観視してしまっていた。

しかしイラン・サイドから考えてみれば、初戦を落として必死になっており、前回負けている相手への雪辱を期している、

難しい相手であることは簡単にわかるはずなのに…どこかで早くも浮かれていたのかもしれない。

試合は日本が圧倒していた。しかしどこか思い切りが悪く、大事にいきすぎていた印象。

またそれまで攻めのひとつの大きな駒となっていた福田の不調と都並の怪我による左サイド・バックの不安もあった。

そして前半ロスタイムにFKから失点。さらに後半になって勝負に出たところをカウンターからダエイに追加点を奪われた。

日本は中山を投入し、この試合日本代表が失っていた「思い切りのよさ」を見せてくれた彼によって1点を返す。

中山は得点後、すぐさまゴールからボールを拾い、センターサークルに向って全速力で走った。

それはまだ1点負けていることを意味しており、と同時にこの試合を負けることはワールドカップ出場が遠のくことを意味していた。

最後まで勝つつもりで戦う、という意志を表したこの中山の姿は今では当たり前の光景だが、

Jリーグが出来たばかりの当時の日本では珍しい光景だったと記憶している。

プロ・リーグなしに代表は強くならないという川淵氏の考えを裏付ける光景でもあった。

しかし結局試合はこのまま1−2で破れ、勝利のない日本は一気に崖っぷちに立った。

最終予選最後の試合であるイラク戦は「ドーハの悲劇」として語られることも多く、

テレビでもさんざん同点とされたシーンが出て来るが、この大会のポイントはこのイラン戦にこそあった。

「決めるべき時に決めること」の大切さ、「簡単な相手は存在しない」という戒め、ロスタイムにおける失点の恐怖。

その後の日本代表に、今日までずっと重くのしかかるテーマがこの試合で初めて見えたといっていい。

そして中山の教えた「最後まで諦めない」というプロ選手としての強い意志は

日本代表の新たな武器として、欧州や南米の列強国同様に引き継がれていくべきものだった。

 

さて、イラン戦での敗戦で後がなくなった日本は続く北朝鮮には「3−0」の一応の快勝だった。

初勝利ということもあり、3得点で満足してしまうムードだったが、もっともっと得点できた試合ではあった。

どのみち次の第4戦の韓国との試合にも勝つことだけが求められた。またしても「韓国」だった。

しかし日本にはそれまでにない要因があった。

KAZUというストライカーの存在、そして高木に代わり北朝鮮戦から先発に起用された、

いち早く「負けない強い意志」を持ていったムードメイカー&今大会ラッキーボーイ中山の存在。

試合は吉田のセンタリングをKAZUが根性で押し込み、先制、そのまま終了した。

スコアは「1−0」であったが、試合内容は完勝といってよかった。

韓国はこれといった攻撃もできていなかったし、韓国得意の激しいマークに対して日本のチーム戦術と技術が勝った印象。

日本はオフトのメンバー固定思考が功を奏して、選手たちは自分の役割を十分理解していた。

そしてこの試合は日本が韓国にに対してすでにコンプレックスがなくなったと確認できた初めての試合でもあった。

 

〜以下近々続く

inserted by FC2 system